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たった一人の脱走者 - 長月弥生

2015/11/11 (Wed) 04:34:03

新光歴215年某月、アークスシップ市街地のとある区域・・・
ここでは最近赤子の誘拐事件が多発していた。


「また赤ん坊の誘拐だとよ」
「誘拐?」
「ああ、何でも生まれて間もない赤ん坊をさらう事件が起こってるんだ。何故かニュース沙汰にならないのがキナ臭いがな」
「ニュースにならない?何でさ?」
「さぁてな、ウワサじゃ何処かの研究機関の圧力がかかっている噂もあるそうだぜ」
「研究機関の圧力ねぇ。しかし生まれたばかりの赤ん坊をさらって何をしようとするんだろうな?」
「オレの想像だが・・・生まれた赤ん坊を戦闘機械に育ててダーカー共にぶつけるとかだったりしてな」
「おいおい流石にそれは本の読み過ぎだろ。SFじゃあるまいし」
「それ言っちゃおしまいよ。大体俺等は船に乗って宇宙を彷徨っているんだぜ?何が起こってもおかしくないさ」
「そんなもんかねぇ・・・」


新光歴225年、惑星ナベリウス某研究所にて・・・


(よし、警備は薄いようだな。後は輸送船に積むコンテナに忍び込めば・・・)

研究所脱走を試みる少年の身体は酷く荒れていた。
彼と同期の子供達は幾度の戦闘訓練の中に耐えきれず衰弱死してしまい、日を重ねる度に減っていってしまった。
このままでは自分も死んでしまうのではないかと思った彼は脱走を計画し、チャンスを待っていた。

(見てろよ!誰もやらない事をオレがやってやる!)

彼は他の人達と共に脱走しようと誘ったが・・・

「死にに行く気か?脱走したとしても生きていける保証はないぞ?」
「戦闘訓練は辛いけど・・・乗り越えられればいつかは外に出られる」

等、否定的な意見に憤怒した彼は一人で脱走する事にし、計画を練ることにした。
そして・・・今日この日が己の自由を掴む為のチャンスの日である!

輸送物質を見張る警備員のスキをついてコンテナに忍び込み、隠れる。
巨大なアームで次々とコンテナが輸送船へ収容。彼が隠れているコンテナもアームに掴まれ、そのまま輸送船に収容された。
後はそのまま発艦を待つのみ・・・その時である!

「ダーカーの襲撃だ!!大群で襲ってきたぞ!!」
「全員戦闘態勢につけ!訓練生も出ろ!」

突然のダーカーの襲撃、それも昆虫系ダーカーの大群が研究所に襲い掛かってきた!

「船長!他の輸送物質はどうします!?」
「輸送物質より俺達の命が大事だろ!このままずらかるぞ!」
「この区域から離脱だ!全員歯を食いしばれ!!」

スクランブル発艦する輸送船。
急な速度でコンテナの壁にぶつかった彼はそのまま気を失う。隠して脱走は成功したのである。


同時刻、研究所にて・・・


「訓練生を含めた鎮圧部隊全滅!何人かはダーカーに拉致された模様!」
「ダーカーめ、よくも我々の研究の邪魔を・・・」
「しかし皮肉なものだ。戦闘機械育成として赤子を拉致していた我々がダーカーに拉致されるとはな・・・」
「残りの訓練生は直ぐにキャストのボディに移植しろ。移植が終わったらそのまま戦わせるように」


それから時が流れ、新光歴238年・・・


「やれやれ、今回は廃墟になった研究所の調査か。」

謎が多いナベリウス遺跡での構造物調査を任されたオレは度々現れるダーカーを蹴散らし、廃墟になった研究所の中へ入る事にした。
施設の中にはダーカーの襲撃の跡が残っており、地面にはキャストの残骸や骨と化した遺体が各所に転がっていた。白衣を着た遺体は恐らくココの研究員だろう。
廃墟の状況を写真を収めつつ奥へ進む中、オレは見覚えのある部屋を見つける。
そこはヒト一人分が入る棺桶状の部屋になっており、寝台にもなっていた。棺桶の入口看板には「091」という番号が書かれている。

「そうかこの施設、前にオレがいた所だったのか。となるとこの仏共は・・・そうか」

誰もやらなかった研究所からの脱走・・・
あの日脱走しなければ今頃オレは彼等と同じ仏になっていたのであろう。研究員は・・・自業自得ってヤツだ。
調査レポートをまとめ、依頼先へ送った後オレは研究所をあとにした。
「ココはもう再度と来ないだろう・・・」そう思うのであった。


新光歴225年、輸送船 船長室にて・・・


「そうか、それで坊主はコンテナの中に潜んでいたのか。まぁ研究所の連中は自業自得だな」
「うん、今日逃げなかったら今頃死んでたかも・・・」
「だろうな。よし、暫くこの船で出来る仕事を与えてやる!このまま自由にしても野垂れ死にだからな。そういや坊主名前は何だ?」
「名前・・・カイ。ただの・・・カイだ。」
「カイ・・・か。よし、今日から坊主は東武カイと名乗れ!カイなんて名乗るヒトにゃいろいろいるからな。上の名前あれば区別は付くだろう?」
「東武?何で?」
「細かけぇ理由は無ぇよ!オレの直感だ!」

こうして一人の少年「カイ」は「東武カイ」という新しい名と新しい仕事を手に入れた。
その後、輸送船で様々な出来事に遭遇するが・・・それはまた又の機会で。

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